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東京地方裁判所 昭和34年(ワ)4838号 判決 1960年1月21日

原告 今里重義

右訴訟代理人弁護士 青柳長次郎

被告 東京信用金庫

右代表者理事 大堀庫次

右訴訟代理人弁護士 能村幸雄

主文

原告の請求を棄却する

訴訟費用は原告の負担とする

事実

原告訴訟代理人は被告は原告に対し金二十万円並右に対する昭和三十一年十月十日から支払済に至る迄年六分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め其請求の原因として昭和三十一年十月十日訴外三村耕蔵は被告金庫新宿支店に金二十万円の普通預金をなしたところ(預金通帳番号第二、六七八号)原告は右訴外人に対する債権者として同人に対する東京法務局所属公証人下秀雄作成昭和三十四年第四七九号金銭債務弁済契約公正証書に基き右預金債権に付水戸地方裁判所昭和三十四年(ル)第二十三号債権差押及転付命令を得右は昭和三十四年四月八日第三債務者たる被告に送達された。仍て原告は被告に対し右元金二十万円並右に対する預入の日より完済に至る迄年六分の割合による利息の支払を求める為本訴に及んだと述べ、被告の抗弁を否認し之に対し被告主張の譲渡通知の特約の効力は転付命令に及ばないと述べて乙第九号証の成立は知らない其余の乙号各証の成立は認めると述べた。

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め答弁として原告主張事実は認める抗弁として(一)本件債権の債権者が訴外三村耕蔵であるか或は訴外大塚道賢であるか確知できない。即ち本件預金については昭和三十三年十二月二十三日三村耕蔵より被告に対し之を大塚道賢に譲渡した旨の通知があつたが更に昭和三十四年二月二十八日右債権譲渡を取消した旨の通知があつた次第で被告は右債権譲渡及右譲渡の解除が有効になされたか否か全く不明であつて本件預金債権者が右二名のいずれであるか確知できない(二)仮に本件預金債権者が三村耕蔵であるとしても本件預金には譲渡禁止の特約があるところ被告が本件債権転付命令の送達を受ける以前である昭和三十四年一月原告は被告より右事実を聞知しているから本件債権転付命令は其の効なきものと云わなければならないよつて本訴請求は失当であると述べ立証として乙第一号証乃至第十号証を提出し証人松崎利任の尋問を求めた。

理由

原告主張事実は被告の認めるところである。仍て被告の抗弁に付て按ずるに成立に争なき乙第四号証に証人松崎利任の証言を綜合すれば本件預金債権に付ては本件の債権差押転付命令が被告に送達される以前たる昭和三十三年十二月二十三日頃訴外大塚道賢に譲渡された旨の通知が三村耕蔵の代理人青柳長次郎より債務者たる被告になされていることが認められるから反証なき限り右債権は当時大塚に譲渡されたものと認むべく右証言に成立に争なき乙第八号証を綜合すれば更に昭和三十四年二月二十七日頃右債権譲渡契約は取消され其結果三村耕蔵へ右取消の結果預金債権者の地位が復活した旨の通知が三村耕蔵より被告になされたことを認めることができる。而して右事実関係よりすれば三村耕蔵は一旦大塚道賢に本件預金債権を譲渡し該契約解除の結果右債権が再び三村に復帰した関係にあるものと云うべく右の如き場合に於ては譲受人たる右大塚より右解除による債権復帰の事実を債務者たる被告に通知するに非ざれば之を以て被告に対抗することはできないものと解しなければならない。従て右の如く譲受人でない三村が右譲渡通知の取消を債務者たる被告になせばとて之により右債権が三村に復帰したことを被告に主張することはできない。けだし債権者たりし譲受人をして最早その債権者にあらざる事実を債務者に通知せしめるに非ざれば債務者は後日譲受人より債権の弁済を要求せられる危険があるからである。然らば三村が本件預金債権者であることを前提として発せられた本件差押転付命令に基き被告に対し右預金の支払を求める本訴請求は他の判断をなす迄もなく失当であるから之を棄却すべきものと認め訴訟費用に付民事訴訟法第八十九条を適用し主文の如く判決する。

(裁判官 池野仁二)

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